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田村を創る人たち#6

2018.5.1

「夢はポルシェに乗ること。それを見た若い世代が、たばこ農家を目指すようになってくれたらいい」

 

田村市の夏の風物詩、たばこ畑。まっすぐ高く伸びた茎に、ひと際目を引く大きな葉っぱは、田村市民なら誰もが懐かしむ光景です。年々たばこ農家が減少していくなか、県内最年少のたばこ農家としてがんばっている大橋直哉さん(33歳/田村市大越町出身)にお話しを伺いました。

 

写真=田村市復興応援隊 渡邉

聞き手=田村市復興応援隊 渡邉、山代

文=田村市復興応援隊 山代

 

20歳でたばこ農家になった大橋さん

 

ーたばこ農家になろうと思ったきっかけはなんですか?

もともとは祖父母がたばこ農家をやっていました。それを見ていて、農業いいなぁと思うようになりました。でも、実際たばこ農家になってみると、仕事の7割はイヤなことでしたけどね。イヤなことは多いけど、3月になると「早く畑に行きてぇなぁー」と思います。

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大橋さんのたばこ畑

 

ーたばこ農家以外では、どんな活動をしているのですか?

若手農業者のコミュニティ-団体『田村の「農」ネットワーク』で今年の3月まで3年間代表を務めていました。他には、『南東北たばこ耕作組合青年部』の副部長を務めています。地域の消防団の活動や、農業を通した田村市の地域活性化を目指す団体『アグリクリエイターズたむら』にも所属しています。

 

ー『田村の「農」ネットワーク』とは、どんなことをしている団体ですか?

若手農業者の技術向上のため、毎年研修や情報交換の場を用意しています。将来の農家育成のため、地域の高校に行って農業の紹介を行うこともあります。『田村の「農」ネットワーク』自体は、20年以上そうした活動を続けてきました。

 

ー代表として苦労したことはありますか?

農家といっても、畜産農家もいれば、野菜農家や水稲農家など様々です。極力誰でも参加できる研修を企画しますが、それでも、25人ほどいる会員の希望をすべて叶えるというのは、やはり難しいです。

 

あとは、今でこそ「マルシェ」といったオシャレな言葉やイメージが農業にもできてきましたが、当時は農家といえば、古くさいという印象を持たれることが多かったです。そのため若手農家が少なく、会員も増えませんでした。

ただ、2013年ごろからは段々と農家、特に新規就農者が増えてきました。そうすると、今度は全員を一同に集めるのが難しくなりました。いつも決まった人しか集まりに来なくなり、なかなか問題はなくなりません。

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まるで苦労が苦労ではないかのように、楽しく話をしてくださる大橋さん

 

ー東日本大震災の影響はありましたか?

ここのたばこは幸い放射線量に問題はなく、風評被害もありませんでした。ただ、震災の後1年間はたばこを栽培してはいけないといわれ、ショックでした。家の目の前に実験で一畝(ひとうね)だけでも植えようかとも思いましたが、その頃は放射線にみんなとても敏感だったので、勝手に植えて周りに迷惑をかけたくないと思い、用意していたたばこの苗は全て処分しました。

 

とてもショックでしたが、ふと「福島でたばこが作れないなら、作れる場所に行けばいいじゃん」ということに気づいたんです。その後は、知人を頼って、青森県や秋田県、宮崎県の農家でたばこ作りを手伝いました。

 

大越町でたばこ農家を今後も続けるかどうかはもちろん悩みました。震災後追い打ちをかけるように、国内でのたばこ市場の縮小のため、全国のタバコ生産農家に廃作の募集がかけられました。高齢や震災後の見通しの立たなさから、募集に応じた県内の農家は多いと思います。

 

それでも、自分はたばこ農家を続けると決めました。なんでかと聞かれるとわかりませんが、若かったし、独身だったし、何より「あきらめるにはまだ早い」そう思ったんです。

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ー30年後、たばこ農家や地元にどうなっていてほしいですか?

震災前1,000軒近くあった県内のタバコ農家は、今では400軒を下回ったと聞きました。このままいくと、30年後には今の10分の1くらいになっているんじゃないかと思います。だからこそ、自分はいつか「ポルシェ」に乗らなければいけないと思ってるんです。

 

ポルシェに乗って、若い人たちにたばこ農家になる魅力を見せる必要があります。だから、自分の夢はたばこ農家で年収1,000万円を超え、「ポルシェ」に乗ることなんです。

 

そうして、田村市を支えてきたたばこ栽培の技術や伝統、懐かしの風景を次の世代に繋いでいきたい。今、たばこは嗜好品以外の用途としても、効率的なインフルエンザワクチンの製造に有効だとして、研究が進んでいると聞きました。がんの治療や漢方など幅広い分野で、今後どんどんたばこが活用されることを期待しています。

 

「吸う人も、吸わない人も心地よい世の中へ」

 

これは、自分がずっと前から思っていたことです。

そうして、自分が生まれ育った大越町のように、またたくさんの子どもの声が響く地域になってほしいと思います。

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~編集後記~

【渡邉】ほんとに大橋さんて畑が好きなんだね~

【山代】やっぱり小さい頃からおじいちゃん、おばあちゃんの姿を見てたからですかね^^

【渡邉】孫と一緒に今でも仕事ができて、おばあちゃんもうれしそうだったね~

【山代】いつか大橋さんも、孫と一緒に仕事してたりするかもしれないですね!

 

優しい顔で大橋さんを見つめるおばあちゃん

優しい顔で大橋さんを見つめるおばあちゃん


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